クラスアクションについて

トヨタの問題に関して、ちょっと思い出したことがあります。アメリカではトヨタ車オーナーが中古車価値が下がったという理由で、クラスアクション(集団訴訟)を提起したという報道がなされています。これをみて「アメリカはやはりおかしな訴訟大国だ。日本人はそんなことで訴訟なんかしない。」という感想をもつ方が結構多いようです。

たしかにトヨタがリコール隠しをしたと決まったわけではありませんから、これらのクラスアクションが成功するとは限りません。しかし、私はクラスアクション自体がそんなに変とは思いません。

まず、社会事情の違いですが、アメリカでは中古車にかなり価値があるのです。日本人の感覚からいうと「新車」に対しては異常なほど価値を認める一方で、中古車になると極端に値が下がりますから、そんな大した金額でもないのに訴訟するなんて、と思うかも知れません。ところが、アメリカでは中古車でも結構良い値段で売れるんです。ですから、今回トヨタの高級車オーナー達が受けた「損害」はバカにできない金額なのです(そうはいっても1台数十万の単位ですが)。

また、これは個人的な話で恐縮ですが、10年前に父がこの世を去った後、私はしばらく形見である三菱パジェロに乗っていました。亡き父を偲ぶとともに、雪の多い北陸ではRV車が便利でした。2003年頃、例の三菱自動車リコール隠し事件が起きたとき、パジェロも中古車価格がかなり下がりました。報道された事件の酷い内容に憤慨した私は、三菱自動車の役員に対する損害賠償訴訟を本気で考えたものです。しかし、訴訟を起こすにはあまりにも損害は少額で、結局、何もできませんでした。それ以来、企業不祥事によりユーザーが製造物の評価損をこうむっても法的手段をとらないのは、日本人の美しい「和の精神」(あるいは訴訟嫌い)が理由ではなく、適切な訴訟制度が整っていないからだと考えるようになりました。

そして何より、三菱自動車事件の結末は、被害者のご遺族にはやりきれない思いを残したと思います。元役員らに対する懲役刑は執行猶予付き、しかも、罰金刑は20万円のみ。亡くなった母親に対する損害賠償金が会社から支払われているはずですが、主婦の命に対する評価が不当に低いわが国の法制度の下では、その金額はご遺族の悲しみを癒すには程遠いものと推測します。

もし、わが国にクラスアクションがあれば、三菱自動車に対して全国の三菱車ユーザーから多数の損害賠償請求が起こり、悪質なリコール隠しに対しては「懲罰」賠償が認められ、さらに会社の株主からは不実表示による株価下落の損害賠償請求が起きていたかも知れません。すくなくとも、元役員らの違法行為により少額損害をうけた多数のユーザーが泣き寝入りしなければならない状況は防げるはずです。

私には、いろいろな弊害はあるにせよ工夫によって克服可能だし、「消費者の利益を守る」という明確なプリンシパルが感じられるアメリカの法制度のほうが正義にかなっているように思えるのですが、どうでしょうか。

(2010年3月13日 初出)