アリゾナ州新移民法と阿久根市長

最近の報道によると、連邦地方裁判所がアリゾナ州の新移民法の施行を差し止めたようです。違法移民対策として州警察に強力な捜査権を与えた同法は連邦憲法に違反するとして、メキシコなど関連諸国への配慮もあって、連邦政府が差し止めを申し立てていました。アリゾナ州側はこれを不服として上訴する方針であるといいます。

警察官が違法移民であるという合理的な疑いをもっただけで逮捕できるという同法案は確かに憲法違反の疑いが強いですけれども、自州民の利益のためこれだけ強引な立法が州議会で通過するというのも、アメリカならではだと感じます。

そういえば、問題はかなり異なりますが、最近の日本でも地方政府と中央政府の対立がありますね。当事者は、例の阿久根市長と総務省です。裁判所の判決にも従わず、議会を無視して専決処分を繰りかえす市長の行動は違法状態であるという声に動かされ、原口総務大臣が何らかの対策を検討しているようです。

わたしは阿久根市の事情を良く存じませんが、同市長はリコール後の再選をへて現在の職にあるとのことなので、相当の住民の支持があるのでしょう。強引な専決処分も、同市長にとってみれば、住民の利益を第一に考えてやっているという主張もできなくはありません。問題は、それが間違いなく市長に認められている権限の濫用であることです。

そうはいっても、法的な対応はなかなか難しい気がします。というのは、おそらく日本の法律は、市長は「善人」であることを前提に専決処分権(裁量権)を与えていて、これが濫用されるような事態は想定していないだろうからです。議会や裁判所のコントロールもきかないのでは、事実上お手上げです。立法措置といっても、どのような要件で市長の裁量権を制限できるのでしょうか?その意味で、原口総務大臣が今後どのような対応を打ち出すのか楽しみです。

ところで、やや強引ではありますが、この話を上のアリゾナ州の件と比較してみると面白いと思います。日本の場合とは違って、アメリカの各州はそれぞれ国家であり、もともと無限の権限をもっています。その権力を連邦憲法が基本的人権等の観点から制限するという仕組みなのです。日本の場合は、地方政府と中央政府の関係はあまり明確ではないが、地方政府は中央政府から委任された権限を法律の範囲内で行使するというのが一般的な理解だと思われます。つまり、構造が真逆なのです。

ひとつの観点として、アメリカの場合は地方政府の無限大の権限行使を憲法により制限する仕組みがもともと認められているのに対して、日本の場合には地方政府の権限はもともと制限されているもので、いったん例外を認めてしまうと、その制限はなかなか難しいということにはならないでしょうか。

阿久根市長の件は、明白な住民の利益侵害があるわけでもなく、政府が口を出さずに、あくまでも地方政治の枠のなかで解決すべき事柄のように思います。総務省が立法を検討するのはよいのですが、地方自治法にあまりに詳細な規定を設けて、他の市長の裁量権を制限する結果になるのでは本末転倒といえます。

むしろ問題の本質は、裁判所の判断が簡単に無視されたり、市長等の権限濫用を効果的に抑制する法的手段がないことであり、それはわが国の法体系における共通の問題点として、より根本的な解決策を探るべきではないかと考えます。

(2010年8月1日 初出)