虐待致死傷罪の立法化に賛成する

最近、毎日のように目にする子ども虐待のニュース。飢え死にして床の上で白骨化した幼い姉弟。寒いベランダで衰弱死した女の子。いじめられるために生まれてきたはずではないのに、苦しみ抜いて短い人生を終えた子ども達の気持ちを考えて胸を痛める方が多いことと存じます。私もその一人です。

政府も手をこまねいているわけではないでしょう。虐待防止の障害となる親権規定の改正を審議会で検討しています。その議事録を読みましたが、方向性はなかなか定まらず、立法化されるまでにはかなり時間がかかりそうです。また、親権規定の改正だけでは虐待への対応は限定的なものにとどまるといわざるを得ません。

そんなとき、虐待致死傷罪を立法化する署名活動を知りました。私はこの虐待を「犯罪化」する立法活動に基本的に賛成します。神奈川県のある母親が始めた活動だそうですが、まことに正しい方向だと思います。勇気ある行動に敬意を表します。

ひまわり署名プロジェクト
http://www.maylibridshope.syarasoujyu.com/

ここで予想される反対意見に反論しておきます。

一つ目は、親を処罰しても仕方がない、彼女らもまた被害者なのだから、むしろ援助や矯正を行うべき、というもの。それをいうなら、犯罪者にはすべて事情があります。貧困家庭で育ったもの。知的障害のあるもの。成長の過程で親から虐待されたもの。社会的差別を受けた者。それらの事情に配慮していたのでは、犯罪を取り締まることはできません。人格ではなく行為を処罰するのが刑法の基本です。また、刑罰は、ただ社会から隔離するだけではなく、受刑者に反省の機会を与え、社会復帰をめざして更正させる機会でもあります。

二つ目は、児童相談所の権限を強化するほうがよい、というもの。これもすでに一部実現していますが、虐待死はなくなりません。私は児童相談所に期待していません。それは意欲や能力がないということではなく、そもそも無理なことを要求しているからです。児童相談所の使命は親と子どもの関係を調整することで、強制力の行使ではありません。その点、強制力の行使に慣れているのは警察です。虐待を犯罪化することで、警察が強制的に介入できるようになります。

大阪の事件でも、数ヶ月前に母親が1週間ほど子ども達を残してアパートを出た時点で、通報により警察が逮捕していれば、少なくとも子ども達の命は救えたはずです。

三つ目は、親から引き離した子どもをどうするのか、という反対です。一時預かり施設も満杯だといいます。報道が少ないので実態がよくわかりませんが、私はここに予算を使うべきだと思います。親にいじめられた子どもは傷ついているので、心のケアが重要です。親に戻す必要はありません。虐待した親は裁判所で許可されるまで、子どもにあうことを禁止すべきです。里親をさがしたり、養子縁組をする立法も考慮に値します。年長の子どもに対しては、自立支援もすべきです。

虐待を犯罪化することは過激な発想のように見えるかもしれません。しかし、日本では、子どもは親の所有物・附属品だという意識が強すぎることを自覚するとき、決して行き過ぎた対応ではありません。子どもは独立の人格をもっています。抵抗のできない子どもを傷つけることは、いかなる理由であっても許されません。犯罪とするのに十分値する行為だと考えます。

アメリカでは車に乗せた子どもを駐車場に置き去りにするだけで、親は逮捕されます。スクールバスが停車するときには、前後の車はすべて停止して待たなければなりません。子どもの誘拐や殺人も多い国だけに、社会全体で事件や事故から「子どもを守る」という強い意識を明確に感じます。

もちろん虐待の犯罪化ですべて解決するとは考えてはいません。しかし、不可欠の第一歩であり、この方向で親の更正、子どもの処遇なども至急取り組んでいく必要があります。重要なのは方向を定めて予算と努力を傾注していくことです。現在のように、焦点の定まらない議論を続けていても、子どもの屍が増えるばかりです。

いまの日本に足りないのは、虐待から「子どもを守る」という強い意志です。虐待致死傷罪の立法化をもとめる署名活動が功を奏し、早期に法律が実現することを願ってやみません。

(2010年8月17日 初出)