上場廃止基準について

東芝の不正会計事件に関して、同社株式の上場廃止の行方が議論となっています。参考までに、数年前に別のブログに掲載したオリンパス事件に関する記事を以下に転載します。


「オリンパス株は上場維持されるべきか」

東証は、現在、オリンパス株式の上場維持審査を行っている。オリンパス社については、日本を代表するカメラ・内視鏡メーカーであること、現在の株主が損害を受けることなどから、上場廃止に慎重な意見もある。だが、私は、オリンパス株式はいったん上場を廃止したうえで時間をかけて会社の内部体制を整備し、株主が受けた損害は証券訴訟により回復することが日本の国益からみて望ましいと考える。

東証の上場廃止基準では「有価証券報告書に虚偽記載があり、その影響が重大」であること、とされているだけであるから、具体的な判断は審査委員会に委ねられている。過去の事案を見ると、不正会計の金額や期間、組織的に行われたかどうか、が重要な考慮要因となっている。たとえば、日興コーディアル証券が不正会計をおこなったときには、第三者委員会が「組織的不正があった」と認定したにもかかわらず、東証は上場維持の判断をしている。このときは、不正の金額が大きくなかったことや、組織的関与が東証により確認できなかったこと等が理由とされた。

しかし、過去の事例と比較してみても、オリンパスの虚偽記載が与えた影響ははるかに重大である。それは、海外にも展開する日本の大企業が「飛ばし」のような使い古された手法で損失隠しを行っていたことの衝撃である。他の多くの日本企業でも同じようなことが行われているのではないか、という疑惑の目を海外の投資家から向けられたことだけをとってみても、オリンパスの不正会計は重大であるといえよう。

日本の証券市場に自浄能力があることを広く世界に示す意味でも、オリンパス株はいったん上場廃止とし、会社が財務書類の正確性を担保できる社内体制を再構築するべきだろう。また、外部の監査法人との関係も根本的に見直し、十分に独立性を確保させる必要もある。上場株式銘柄がもつ信頼性を考慮するとき、それらのことが明確な形で社会に示されない限り、オリンパス株が上場株式として取引されることは許されないはずである。

オリンパス株を上場廃止すれば、内外の投資者に多大な損害が生じることは事実である。また、日本には欧米のようなクラスアクション制度がないので、投資者が十分な損害回復ができないという指摘もある。確かにその通りである。しかし、だからといって上場維持に結びつけることは本末転倒であるといわなければならない。

ライブドア株が上場廃止されたときには、個人投資家や機関投資家により、数多くの損害賠償訴訟が提起された。クラスアクションはないが、日本の弁護士は現行法の枠内でさまざまな工夫をしつつ投資者の損害回復を実現している。 これらの努力を後押しするためにも、日本政府は証券訴訟についてクラスアクションの立法化を急ぐ必要があるのではないか。

投資者が被った損害は、会社や役員に対する損害賠償請求訴訟で回復するのが本筋であると考える。

(2011-12-25)


上場廃止基準の明確化を

オリンパス株の上場維持が決定された。結論自体は予想されていたことであったが、驚いたのは東証自主規制法人が発表した上場維持の理由である。

「本件虚偽記載の内容については、財務諸表への影響は長期間に及んでいたものの、同社の事業規模を踏まえれば、その利益水準や業績トレンドを継続的に大きく見誤らせるものであったとまではいえず、同社の本業における経営成績を拠り所とした市場の評価を著しく歪めたものであったとまでは認められませんでした。」(東証HPより)

表現がわかりにくいが、要するに訂正後も債務超過がなかったので、投資判断に与えた影響は少なかったということである。東証は、上場廃止基準の「影響」という文言をあえて投資判断への影響と限定した上で、債務超過がなかったことを投資判断の影響が重大でなかったことの根拠としているのである。これはひどい論点のすりかえである。

今回、オリンパス株を上場廃止にするかどうかの判断基準は、「虚偽表示があり、その影響が重大」かどうかである。この「影響」とは将来の投資家への影響を含む社会的なものであり、債務超過の有無が投資判断に影響したかどうかという話ではない。しかも、オリンパスが実質的に見て債務超過でなかったかどうかは疑問の残るところである。東証の見解は、あまりに企業情報のもつ多様性や価値を軽視したものと言わざるを得ない。

過去の事案との整合性もあるとされているが、上場廃止基準があいまいであるから、過去の事案と抵触しない債務超過がなかったことを後付けの理由として採用しているような印象が強い。そうであれば、過去の事案との整合性があるのは、当たり前のことである。

理由付けはともかく、上場を廃止すれば投資家が損をするので結論自体は妥当とみる意見もあるが、この場合の投資家とは誰のことなのだろうか。東証に対してオリンパス上場維持の要望をしたり、ウッドフォード氏の社長復帰に反対した国内外の大手機関投資家は確実に上場維持により損失を免れるであろう。しかし、一連の不正会計報道の中で多数の個人投資家が上場廃止への懸念や狼狽売りでオリンパス株を安値で手放さざるをえなかった事実を見逃すべきではない。

今回の上場維持の決定で無視されているのは、声なき多数の個人投資家の利益、および日本の証券市場の信頼性という大きな国家的利益ではないだろうか。

東証の自主規制法人の理事はわずか5名であり、各委員の経歴をみても十分に判断の独立性が確保された体制になっているとはいいがたい。これらの点からすると、上場廃止判断については自主規制法人に大きな裁量権が与えられすぎているといえる。虚偽表示発覚後の投機取引による市場の混乱を防止するためにも、上場廃止基準はできる限り裁量の余地を少なくし明確化されるべきである。

(2012-1-22)