大河ドラマ「龍馬伝」2010年

今年の大河ドラマは龍馬伝。私の故郷では龍馬伝のおかげで観光客が増えているようです。私としては、久しぶりの龍馬ブームがうれしくもあり、いつまでたっても龍馬人気に頼らざるを得ない過疎県高知の現状が残念でもあります。とくに今回のドラマは若い世代に人気があるようです。著名なシンガー福山雅治さんを主役に抜擢した効果に加えて、従来のように完成された龍馬の成功物語ではなく、悩みながら成長していく龍馬を描いているところが、同様に悩み多き若者たちの共感を呼んでいるのでしょう。

龍馬が成し遂げたことは何だったのでしょうか?ドラマに描かれている通り、土佐を脱藩した龍馬は、日本を外国勢力から守る、強い日本をつくるという志を持って、勝海舟のもとで海軍をつくろうとし、神戸の海軍操練所が閉鎖された後は、薩摩と長州を結びつけて倒幕に至ります。一言でいえば、龍馬は有能なネゴシエイターであり、「日本のしくみ」を変えるきっかけを作ったのです。当時の日本は、ほころびながらも260年間続いてきた徳川幕府体制でした。日本国を滅亡に導きかねなかった幕府をつぶし、アジアではじめて西洋諸国と同じ立憲君主国家に生まれ変わったのです(ただし日本が民主主義国家になるまでには、その後70年近くかかります。)

明治維新と同じ頃、アメリカでは南北戦争が起きていました。奴隷制度の是非という大きな転換をかけて国を二分する大戦争をして決着したのです。映画「風とともに去りぬ」で描かれているように、国民のなかに多数の戦死者が(とくにアトランタ周辺の南部において)でました。ところが日本は、龍馬をはじめとする多くの優秀な人々の努力により国家の体制変換を最小限の犠牲において成し遂げているのです。その結果、国力を温存し外国からの侵略を避けることができたのです。これは、ほぼ奇跡に近い偉業であり、日本が世界に誇るべき歴史的事実であると私は思っています。

龍馬たちの活躍で日本に中央集権国家が成立してから130年が経過しました。日本は富国強兵の道をひた走り、ついにペリー来航以来因縁の深いアメリカと戦争をして完全な敗北に至ります。その後、民主主義国家に転換し、官僚主導のもとで奇跡的な経済的繁栄を経験しました。

ところが、いま日本は再び国家として存亡の危機にあるといっても過言ではありません。多くの企業は国際競争力を失い、国家財政は破綻への道を進んでいます。明治以降、日本国を支えてきた中央集権体制をはじめ、この国のしくみにコケがはりついて人々は身動きできなくなっているように見えます。もしいま龍馬がいたら、「今一度、日本を洗濯せにゃいかんぜよ!」と言うかも知れません。でも、どうやって?もちろん幕末とはまったく状況が異なります。そこは龍馬の再来を期待するのではなく、現代に生きる私たちが自ら考えて実行しなくてはならないことです。