映画「ハゲタカ」2009年

「ウォール街」を見直したついでに、昨年6月公開された日本映画「ハゲタカ」のDVDも見ました(見たかったのですが、留学のためこれまで鑑賞の機会がなかったのです)。

結論から言うと、「ハゲタカ」鷲津がすっかり日本企業の味方になってしまっていて物足りなさを感じました。TVドラマのときは、彼は悪役ながらも、背負うべき過去をもち、女性キャスター三島との人間関係が丁寧に描かれていて楽しめたのですが。

最近の映画なので詳しい内容を書くのは控えますが、閉鎖的な日本市場に失望して仕事から遠ざかっていたファンド・マネージャー鷲津が、中国国営資本を背景とした「赤いハゲタカ」に狙われた日本企業アカマ自動車を救済するため、その天才的ファイナンス技術を駆使して対抗するというストーリーです。

中国の政府系ファンド、リーマンブラザーズの崩壊、派遣労働者、など最近の話題が物語に取り入れられています。ただ、製作者側に「日本人の勤勉さ、誠実さこそが企業を守る」というメッセージを込めようとする意図が強すぎたためか、ストーリーに強引な部分があるのは残念です。

たとえば、アカマ自動車の若い派遣労働者に対して中国人ファンドマネージャーの劉が「君たち若者の就職機会がないのは、中年労働者達が既得権で守られているからだ」と甘言をもって近づくシーンがあります。会社側に圧力をかけるために、劉が派遣労働者を狡猾に利用するというプロットなのですが、果たして彼の言った内容も嘘なのでしょうか?日本の若者の就職率は年々悪化しているのは現実です。

また、日本に絶望していた鷲津が突然アカマ自動車の救済に協力するのも、盟友・柴野の説得があったとはいえ不自然です。鷲津は劇中で「強欲が善の時代は終わった」といいます。これは「ウォール街」のゲッコーを意識しているのは明白ですが、出資者の利益を追求すべきファンド・マネージャーの言葉としては違和感があります。鷲津がアカマ自動車を救うために使った手法も、はたして合法かどうか、かなり怪しいものです。

自動車への憧れやモノ作りの理念を説く他の重役たちに対抗して、中国ファンドと提携しようとした合理主義の社長は解任されます。中国ファンドが撤退してしまったためですが、TOB買付け価格のみならず再建計画の内容を検討した結果の決断であり、彼は経営者として最善を尽くしたといえるでしょう。新社長として後を任された柴野は、「会社の再生は不可能に近い。しかし、やるしかない。」といいます。しかし、なんら日本企業の具体的な再生案は示されていません。外国資本を徹底的に悪く描いておいて、無責任といわれてもしかたありません。

この映画の興行成績は封切直後は好調だったようですが、最終的には8億円弱で終わったとのことです。TVドラマが好評だっただけに、同じキャスト・スタッフならば、もう少し伸びてもよかった気がします。おそらく、映画「ハゲタカ」は、20年前の「ウォール街」と同じ過ちを犯してしまったのではないでしょうか。せめて主人公の鷲津が、ゲッコーのように最後まで悪役に徹していれば、違う結果になったのではないかと思います。