稲盛和夫著「実学ー経営と会計」
経営破たんして多額の公的資金が投入されたJALが、今年9月に再上場するということだ。JALにはもともと優秀な人材が多かったはずで、立て直しを行った稲盛和夫氏の従業員に対する意識改革が成功したものと考えられる。いったん法的整理を行ったことが、親方日の丸意識の抜けないJALにとって良いショック療法になったのだろう。再上場により、注入された公的資金も回収できる目途がつきそうである(従前の株主には気の毒であるが)。
見事な手腕をみせた稲盛氏の経営思想に関心をもち、「実学―経営と会計」を読んでみた。近頃は三洋事件やオリンパス事件などにみられるごとく、会計ルールをないがしろにする経営者が多いことにうんざりしていたが、稲盛氏のように会計ルールを尊重する立派な経営者がいることに安堵した。
稲盛氏は以下のように述べている。
「社員の行動にどこかおかしな様子がある場合、不正に対し厳しい社風があり、周囲の者が清廉潔白であれば、すぐに目立つようになり、必要な処理がなされるであろう。しかし、おかしいと思われることを指摘することが『裏切り』であるかのように思わせる雰囲気が社内にあれば、問題は隠蔽されてしまう。このようにして社内に少しぐらいの不正には目をつぶろうという雰囲気が生まれると、やがて組織全体が膿んでいき、いつか必ず会社の屋台骨を揺るがすほどの問題になっていく。だからこそ、不正をなくすためにはまず経営者自身が自らを律する厳しい経営哲学をもち、それを社員と共有できるようにしなくてはならない。」
(日経ビジネス人文庫 2000年[初出1998年])