沢田健太著「大学キャリアセンターのぶっちゃけ話」
キャリアセンターというのは、大学で学生の就職支援を行う機関です。本書は複数の大学で学生のキャリア形成に携わってきた筆者が本音を書いたもので、業界内部にいる私からみても興味深い内容です。
「キャリア教育は内容がとぼしく、ほとんど外部の業者まかせである。」
「OBOGへのアクセス情報が少ない、担当職員の専門性も不足している。」
「企業の希望に沿うため、過剰な適応を学生に求める傾向がある。」
・・など、(すべての大学に当てはまるわけではないでしょうが)現在のキャリアセンターの抱える問題点を論じるとともに、採用する側の企業やシューカツする学生のありかたについても、現場の職員ならではのスルドイ分析を加えていて面白く読めました。
じつは一般教員はあまりキャリアセンターにかかわる機会は多くないのですが、学生さんを通じて、いろいろな情報は得ています。
一番困るのが、学生がシューカツの時期になると授業に出てこないことです。今年は12月から合同企業説明会が始まるようですが、おそらく来年の夏頃まではシューカツが続き、4年生は大学にほとんど来ないのではないでしょうか。多くの先生は学生の心情に理解を示して出席の足らない分をレポートや合宿での発表などで補っているようですが、ときどき疑問を感じます。
なんといっても、シューカツの期間が長すぎるのです。3年生の秋頃から、4年生の秋頃まで、およそ1年間にもわたる間、学生はほとんど勉強しないのです。というより、ISPやら自己分析やらに忙しく、勉強する暇がないのです。
「大学の勉強などあまり意味がない」という批判は聞きますが、そんな批判をする人は年配の人か、若ければ勉強嫌いな人で、多少の我田引水を承知でいえば、昔に比べると最近の大学教育はかなり充実しているといえます。
多大な時間と労力をかけて希望の企業に就職しても、「ミスマッチ」により3年以内に退職する人も少なくなく、そのときキャリア形成のため資格をとろうと思い立っても、大学でまじめに勉強していなければ一からやり直しです。大学にいれば簡単に受けられたはずの講座を高価な費用を払って予備校に行かなければならず、非効率なことこの上ありません。
なんのために大学に行ったのでしょうか?
勉強ではなくても、サークル活動や海外留学や恋愛など学生時代にしかできないことはたくさんあるはずで、貴重な時間を1年以上もISPやら自己分析のシューカツに費やすのは、私の目からすると人生の浪費にしか思えません。大学にある豊富な資料や人材を活用して、英語や資格試験の勉強にあてたほうがよほど役立ちます。
本書は、大学キャリアセンターの現状を伝え、その問題点を提出するに止まり、上のようなシューカツ問題全般に対処するための方向性を示すものではありません。その点で、やや不満は残ったのですが、キャリアセンターの職員が何を考え、何をしようとしているのかがよく理解できました。
関心のある方には一読をお勧めします。
(2011年 ソフトバンク新書)