厳格なロックダウン

オーストラリアに来て、ロックダウンというものを初めて経験しました。連邦政府の定めた制限はかなり厳しいもので、屋外で2人以上の集まりは原則禁止。罰金を科される可能性があるというものでした。ただし、各州によって状況が異なるので、どの程度連邦の定めを受け入れるかは最終的には各州に委ねられています。私のいた南オーストラリア州では、幸いなことに感染者数が少なく、厳格な規制は実施されることはありませんでした。不要不急の外出は禁止されましたが、違反に対する罰則はなく、食料の買い出しはもちろん、通勤や運動のため外出は認められていました。ロックダウン中にも、大学には出勤できましたし、公園などでランニングしている人の姿を見かけることもありました。しかし、一部の商品に買い占めが生じ、しばらくの間、トイレットペーパー、小麦粉、お米などはスーパーで見つけることができませんでした。

厳格なロックダウンの効果は2週間目に現れはじめ、新規感染者数は減少傾向に転じました。1ヶ月が過ぎる頃には、南オーストラリア州では新規感染者はゼロになっていました。その後の出口戦略ですが、オーストラリアではまず連邦政府が段階的な緩和策を公表し、各州が状況に応じてステップを踏みながら緩和していくという方法がとられました。新規感染者がほとんど出なかった南オーストラリア州では連邦政府がデザインしたとおり順調に緩和が進み、現在、ほぼ元どおりになっています。ただし、お隣のメルボルンでは感染者数が急激に増加していて、第二波を警戒して再びロックダウンが行われており、予断を許さない状況が続いています。ビクトリア州と他州とのボーダーは閉鎖されています。

当初はやりすぎではないかと感じたロックダウンでしたが、感染予防効果を目の当たりにすると、オーストラリア政府の早期の決断は見事というほかありません。個人の自由を尊重する社会でも罰則を伴う厳格なロックダウンを果敢に実施できることは驚きでした。特にお国柄の違いを感じたのは、州と連邦の関係です。各州の権限が強く、ボーダの閉鎖や州に入ってくる者に対する自主隔離の義務など、日本の都道府県ではできないことを当然のように行うことができるのです。これが効果抜群であり、隣のビクトリア州では毎日300人を超える新規感染者が出ているにもかかわらず、南オーストラリア州ではほぼゼロ。トラックの荷台に隠れて州境を超えようとした若者数名が警察に逮捕されるというニュースが聞かれるほどです。

しかし、このような厳格な制限が実施される背景には、日本との危機感の違いがあります。最近、日本では毎日200人以上の新規感染者が出ていますが、春頃のピーク時には、重症者が急激に増加することもなく、いつの間にか感染も減少に転じました。それに対して、オーストラリアは拡大を放置すればアメリカやイギリスのように悲惨な状況になることは確実なので、早期に厳格な規制を必要とするのです。新型コロナウィルスに関しては、アングロサクソン系の人々と日本人の間には何か大きな違いがあるとしか思えません。

人影のないランドル・モール